ラッフルズ 1887
モームやキップリングが常連客だったころから何年もの間、Raffles Hotel Singaporeは、その刺激的なライターズ レジデンシー プログラムの一環として、数多くの作家たちを迎えてきました。シンガポール出身の作家として初めてこの役を担うことになった詩人、マドリン・リーが、2022年から2023年にかけての滞在中にどのような日々を過ごしたかを話してくれました。
Raffles Hotel Singaporeのライター イン レジデンスとして迎えていただいたことは、私にとって驚きであり、光栄なことでもありました。シンガポール人の著作を代表するだけでなく、ひとつのジャンルとしての詩の代表になることが、本当に嬉しかったのです。多くの作家仲間が私に羨望の目を向けました。
RHSのご厚意で、私はこのホテルに数日間滞在しました。In situ. それはすばらしい体験でした。というのも、私は場所から書くタイプの詩人だからです。シンガポールに家があるということは、長い週末から1週間へ、時には週末、時には平日と、滞在を分散させることができるということでもありました。こうして9回の滞在を分散させることで、それぞれ異なる瞬間でありながら同じ物理的場所で観察し、書くことができたのです。そして2023年に、『How to Build a Lux Hotel』という30篇の詩を収めた詩集が出版されました。
白亜の貴婦人に喩えられるこのホテルでの典型的な1日として、午前8時に目を覚まし、30分間の瞑想をします。その後、身体が無性に「カフェイン」を欲しがるので、グランドロビーバーに降りてカプチーノのダブルを飲みます。リー、セージ、ブレント、その日の当番によって異なりますが、彼らと少しだけ朝のおしゃべりをします。ケープのついた美しいジャケットを着たルームディレクターのグレイスは、よく通りかかりました。
ティフィンルームには朝食ビュッフェが並んでいますが、朝はあまり食べない方なので、この時間を使ってメモを見直していました。モレスキンのノートにしたためたメモを見ながら、何か良い詩の一節が浮かぶのを待っていました。
"ほとんどが歴史や建物についてです。そこに登場人物の性格や心理を加えたいと思いました"
午前10時半に、パームコートのベランダに移動して休憩します。西ウィングにあるので朝は涼しいのです。そこでは、たいていダージリンティーを飲みながら、しばらくの間、詩作を続けたり本を読んだりしました。ほとんどが歴史や建物についてです。そこに登場人物の性格や心理を加えたいと思いました。ホテルにいる人々だけでなく、鳥や庭園、作家たちの幽霊が通り過ぎるのを観察しました。そのすべてが私の詩集に息吹を与えてくれました。
私は、クリスマスのライトアップや新年、イースターなど、数多くの季節行事に関わり、そのそれぞれから異なる色や視点を得ました。そのおかげで、より満ち足りたストーリーを展開することができました。『How to Build a Lux Hotel』に収められた30篇の詩は6つのテーマにわけて整理することができました。古いもの、新しいもの、配役、味、形、そして恍惚です。
私が好きな2つの瞬間のひとつは、パームコートで庭師とおしゃべりをしていて、彼がどれくらいの頻度でロボット芝刈り機を使わなければならないかがわかったときでした。そこからインスピレーションを得てできたのが、この「fakhrul(ファクルル)」という詩です。
ほんとうは
もっと青いのかもしれない
中庭の芝生は
雨のモンスーンシーズンの芝生は
そう庭師のファクルルはいう
彼は2、3日おきに
ロボット芝刈り機を持ち出す
少し小さめの区画は
2、3時間かかり
大きめの区画は
午前中いっぱいかかる
彼は部屋着用の灰色の長袖ポロシャツを着ている
旅人の手のひらを
かたどったロゴ入りのシャツ
もうひとつの世界では
彼は紳士的なゴルファーかもしれない
そして私は草刈り機
でもこのそよ風の吹く朝
私たちは旧友同士のようにおしゃべりする
彼の美しい芝生のカーペットに侵入する
カウグラスの脅威について
もうひとつのおもしろかった瞬間は、朝食後にパームコートのいつも場所にいると、とある中国人家族がふらりとやってきたときのことです。シンガポーリアン バーズで、私は小さな2人の男の子の間で交わされる中国語のさえずるような会話を記録しました。
驚いたことに、ライターズバーではあまり詩を書かなかったのですが、『How to Build a Lux Hotel』に収められた詩のうちの5篇が、今やヘッドバーテンダーのニコラスが作る一連のカクテルに要約されているのです。中でも大好きなのがバルコニーの詩です。とりわけ、この詩はシャンパンの力をたくさん借りたものだからです!
「balcon(バルコン)」[下]は、シンガポール交響楽団の午後のプレミア公演を聴きにホテルに押し寄せた群衆が、ザ ローンを一望できる2階のバルコニーに殺到する様子を見た後に書いたものです。
ひしめく群衆
チューニングする弦楽器
ザ ローンを
いっぱいに
いっぱいに
満たす
そして
どっと溢れ出る
立ち見席
だけの
2階の
バルコニーへ
あまりにもいろいろなことが四六時中起きているホテルという環境で詩を書くのは、たしかに気が散ることです。私にとって重要な挑戦だったのは、気が散る原因となるものをインスピレーションに変えることでした。
『How to Build a Lux Hotel』は、ラッフルズ アーケードで35ドルにてお求めになれます
Poems © 2023 Madeleine Lee. All rights reserved. これらの詩のいかなる部分も、詩人の許可なく複製することを禁じます。