ラッフルズ 1887
生命の織物
あらゆる場面に豊かな文化が息づく、バリの人々の暮らし。トゥガナンの古い村では、グリンシンと呼ばれる複雑で美しいダブルイカット(縦緯絣)の布にそれが織り込まれています。写真家のプトゥ・サヨガ氏が、この地で最も大切にされている織物の伝統を守る職人たちの姿を伝えます。
インドネシアの布は、この魅力的な島の多様な文化的アイデンティティが反映されたさまざまな色や模様、テクスチャーで、長く人々を惹きつけてきました。この国では、伝統的な布を作る習慣が何世紀にもわたって代々受け継がれてきたのです。
中でもとりわけ長く続いている様式がイカットです。これは、生地を織る前に糸を染色することで得られる独特の織物のパターンです。イカットはインドネシアの至るところで見られますが、これをさらに発展させたダブルイカット様式は、高度な職人技が要求されるため、生産されているのはインドと日本のほか、バリ島トゥガナンの古い村だけです。
他の織物とは異なり、ダブルイカットは縦糸と横糸の両方を複雑な模様に染色してから織り上げられます。トゥガナンの人々はこの技法を使って、「グリンシン」と呼ばれる独自の型を生み出しました。グリンシンの制作は複雑で時間がかかり、儀式的な要素がいくつもあるため、完成までの期間は2年から5年に及ぶこともあります。
模様にはそれぞれ意味がありますが、グリンシンの布はすべて、インドラ神の寛容さにつながる同じ精神の糸を共有しています。というのも、布の模様として使われる影を空に作ったのは、雷と稲妻、雨、戦の神であるインドラだからです。優れた守護力があると考えられているグリンシンは、バリの礼装に欠かせないものであり、結婚式や赤ちゃんに最初の歯が生えたときの儀式など、重要な行事の際には必ず着用されます。また、きちんと手入れすれば何百年も持つため、家宝として大切にされるとともに、世界で最も貴重な布となっています。
プトゥ・サヨガ氏は、バリ島を拠点に活動しているドキュメンタリーおよびトラベルフォトグラファーです。ジョグジャカルタでの学生時代に独学で写真、特にストリートフォトグラフィーの技術を身に付け、スンバワ島のエネルギッシュな馬レース「pacoa jara」や、バリ島トゥンジュク村のワヤンウォン舞踊など、インドネシアのユニークな文化的伝統を定期的に記録しています。ドキュメンタリー集団「Arka Project」の共同設立者でもある彼の作品は、『デスティンアジアン』、『ル・モンド』、『モノクル』、『ニューヨーク・タイムズ』、『トラベル+レジャー・シー』、『ツァイトマガジン』などの新聞・雑誌に掲載されています。