ラッフルズ 1887
かつては静かな湾岸の町だったドーハは、ここ20年間で、驚くべき建築美と文化的な野心に満ちた都市へと変貌を遂げました。こうした変化は、伝統と革新が交差する中で形成されつつあるアイデンティティや、国際的な影響力にも表れています。パートタイム居住者であり、デザイン界の第一人者であるホイットニー・ロビンソンが、ラッフルズ 1887と共に紹介する首都カタールの必見スポット。
2006年に初めて訪れた頃と比べて、ドーハは変わりました――そう言うのは、スカイラインのネオンの輝きを『控えめ』と表現するくらい、控えめすぎる言い方です。かつては、低層の建物と砂漠の道路を特徴とする、真珠採取で知られる静かな湾岸の町でしたが、文字どおり、見事な建築物と文化的な向上心に満ちた都市へと変貌を遂げました。その変貌する姿は、地平線を際立たせるきらめくガラスタワーや、ドーハの芸術的景観を塗り替えた美術館だけに留まりません。今やその変貌は都市の基盤であり、都市構造、グローバルな影響力、そして伝統と現代が交差する場所における進化するアイデンティティに組み込まれています。
私は1年のうち約4か月をドーハで過ごしており、ドーハは事実上第2の故郷です(お断り:私はカタール美術館のコンサルタントを務めています)。出身はニューヨークで、友人の多くは実際にドーハの街を目にするまでこの話をすると驚くのですが、ドーハとニューヨークには、想像以上に多くの共通点があると私は思っています。どちらも常に変化し続けており、常に新しい物が生み出されています。しかし、急速に成長するドーハにおいても、時代を超えて愛され続けている体験があります。今回ご紹介する旅程は、この街を象徴する、独特で、時に風変わりな伝統と革新の融合を体験できる内容になっています。友人や編集者、デザイナーが訪れる際には、必ずこの旅程をすすめています。
一日の始まりは早く、通常は朝5時から最初の朝の祈りで始まります。それはまるで街のアラーム付き時計のようです。ドーハの冬は、マイアミを思わせるような気候で、日中は暖かく、夜は涼しくなります。この地域の季節の移り変わりを知らない人たちは、多くの場合、驚かれることでしょう。カンヌのクロアゼットに似たウォーターフロントの遊歩道、コーニッシュを訪れる人も多いですが、私は、旧内務省の建物を利用した会員制クラブ兼ホテル、ザ・ネッド・ドーハで迎える朝が好きです。デイヴィッド・チッパーフィールドが設計したザ・ネッドは、既存の建造物の誠実さを保ちながら、現代的で国際的なクールさを取り込んで、見事な適応型再利用を実現した一例でもあります。
最上階のクラブからは、I.M.ペイが設計したイスラム美術館の眺めが、非公式ではありますがこの街のランドマークとなっています。イスラム美術館は、12世紀のエジプトのモスクからインスピレーションを得てルーブル美術館のガラスのピラミッドを設計したことでも有名な、中国系アメリカ人建築家の傑作です。2025年11月には、同博物館でペイの生涯と作品の回顧展が開催される予定です。
何よりも、ドーハとその大胆な文化リーダーであるシェイカ・アル=マヤッサ・ビン・ハマド・ビン・ハリーファ・アル=サーニーは、アイデンティティの形成において建築が果たす力の大きさを理解しています。ジャン・ヌーヴェルが設計したカタール国立博物館は、正にその力を示す場所です。NMoQ(カタール国立博物館)、または砂漠のバラとして地元の人々に親しまれているこの建物は、天然ガス鉱床などによる急速な発展を遂げたカタールの物語を伝えています。私はいつも、ドーハを訪れる方にはまずここから始めることをおすすめしています。この場所は、カタールの過去、現在、そして未来を理解する上で欠かせない背景を伝えてくれます。
この博物館には、ドーハ屈指のレストラン、Jiwanも併設されています。コーニッシュを見下ろすそのインテリアは、シドニー在住の日本人建築家、髙田浩一がデザインを手がけ、砂丘の自然な曲線を映し出しています。メニューはアラン・デュカスが考案し、カタール料理をフランス風にアレンジしています。
ドーハでのショッピングは、非常に両極端な要素を楽しめます。一方には、ドーハで最も新しいショッピングモールであるヴァンドーム広場があります。100万平方メートルの広さがあるガラスの天井でできたエアコン完備の宮殿の中には、モンテーニュ通りがあります。大理石の床とシャンデリアが過剰に飾られたデザイナーズブティックを想像してみてください(エルメスにもプライベートガーデンテラスがあります)。もう一方の端には、迷路のようなこの都市の活気あふれる中心地、スーク・ワキーフがあります。そこでは、何世紀も続く貿易文化が今も健在です。ここでは、サフランとウードの香りが立ち込める路地を縫うように歩くことができ、生地屋に飛び込めば、仕立屋が数時間でオーダーメイドのトーブを仕立ててくれます。そして、ここはカタールですから、ファルコン病院にも立ち寄ってみましょう。威風堂々とした鳥たちがVIPレベルの医療を受けている病院です(そう、この国では鷹狩りは本気のビジネスなのです)。夕食には、スークにあるドーハで最高級のシリア料理を提供する老舗料理店、Damasca Oneがおすすめです。木曜の夜は特に活気があり、地元の人や観光客がシシタウークを食べ、シーシャを吸って、1週間を締めくくります。
"ドーハを訪れたなら、砂漠巡礼は欠かせません。特に、リチャード・セラの彫刻作品『East/West』は必見です。アートが空間と知覚を再定義する力を持つことを最も強く感じさせてくれる場所は、地球上の中で他にはないでしょう"
ドーハを訪れたなら、砂漠巡礼は欠かせません。特に、リチャード・セラの彫刻作品『East/West』は必見です。このインスタレーションは4枚のそびえ立つ鋼鉄板で構成されており、高さはそれぞれ14m以上あります。1kmにわたって広がり、アラビア砂漠にキューブリック的な光景を作り出しています。夕暮れ時には鋼鉄板が光り輝いています(私が大好きな時間帯です)。アートに空間と知覚を再定義する力があることを最も強く感じさせてくれる場所は、地球上の中で他にはないでしょう。
砂漠の荒々しい美しさを堪能した後は、ドーハの最新ホスピタリティランドマークであるラッフルズに戻ります。当然ながら、第一印象は建築的な素晴らしさに目を奪われます。スターゲイトやスター・ウォーズに登場してもおかしくないシルエットを持つ近代的な建物です。36階にあるアコースティックに向かうと、虹色に輝く階段にウエストベイのスカイラインが映し出されています。友人たちとクランベリームーンウォークのノンアルコールカクテルとトリュフフライを楽しみながら乾杯しました。ドーハを象徴するような完璧な場所でした。
ホイットニー・ロビンソンは20年以上にわたり、デザインを通じて物語を伝えてきました。エル・デコの編集長として、デザイン界における最も重要な国際的動向を紹介し、最も有望な新進気鋭の才能を発掘して世に送り出しました。デザイン出版業界でのキャリアとしては、Town & CountryやHouse Beautifulでの勤務経験があり、コンデナスト・トラベラー、Departures、ニューヨークタイムズのスタイルマガジン、ウォール・ストリート・ジャーナルに定期的に寄稿しています。デザイナー、編集者、建築家、マーケター、アーティスト、クリエイターからなるWhitney Robinson Internationalという会社を率いる同氏は、現在、カタールにあるプライベート会員制のアートクラブをはじめ、ホスピタリティや不動産開発に自身のビジョンを反映させています。そして、各プロジェクトを、異なる文化に対する感情や理解の仕方を変える機会と捉えて活動を続けています。
ブリジット・ラコンブによるホイットニー・ロビンソンの肖像画